海外移住後でも国民年金は受け取れる?受給の条件とは?

日本に住民票を置くと支払いの義務が発生する「国民年金」。では移住後に住民票を異動させると、移住前に納めてきた国民年金の保険料はどうなるのでしょうか?

「全て意味のないお金へと変わる?」「今まで支払ってきた分のみ年金を受け取れるのか?」「移住後も年金を支払い続けることはできるのか?」など様々疑問に思うことがあるはず。

今回は、年金受給開始年齢前の方を対象に、私のようなケースを中心に注意点などを調べてみました。

目次

海外移住後、移住先でも年金を受給できる?

結論から言うと、海外移住後も年金は受け取れます。また、受取口座を海外の口座にすることも可能です。

しかし、勝手に送金されるかというとそうではないので、受給開始年齢などに応じて自分で受給するための手続きを行う必要があります。

そして、年金を受け取るための条件もあります。

社会保障協定国とは

社会保障協定とは何ですか?社会保障協定を締結する背景・目的

国際的な交流が活発化する中、企業から派遣されて海外で働くことや、将来を海外で生活される方が年々増加しています。

海外で働く場合は、働いている国の社会保障制度に加入をする必要がありますが、日本から海外に派遣された企業駐在員等については、日本の社会保障制度との保険料と二重に負担しなければならない場合が生じています。

また、日本や海外の年金を受け取るためには、一定の期間その国の年金に加入しなければならない場合があるため、その国で負担した年金保険料が年金受給につながらないことがあります。
社会保障協定は、以上を踏まえ、以下2点を目的として締結しています。

  • 「保険料の二重負担」を防止するために加入するべき制度を二国間で調整する(二重加入の防止)
  • 年金受給資格を確保するために、両国の年金制度への加入期間を通算することにより、年金受給のために必要とされる加入期間の要件を満たしやすくする(年金加入期間の通算)
日本年金機構

協定が発効済の国

日本年金機構

移住後も継続して納付できる?国民年金のグループ

国民年金の加入者は職業などによって4グループに分かれており、それぞれ手続きや保険料の納付方法が異なります。

  • 第一号被保険者
  • 第二号被保険者
  • 第三号被保険者
  • 任意加入被保険者

第一号被保険者とは?

自営業、自由業、農林漁業、学生、無職の方などで、20歳以上60歳未満の方。

加入手続き:市区町村保険年金課または最寄りの年金事務所

保険料の納め方:自分で納める

第二号被保険者とは?

厚生年金に加入している会社員や公務員などの方。

加入手続き:勤務先

保険料の納め方:厚生年金保険料が給料から天引きされます

第三号被保険者とは?

第二号被保険者に扶養されている配偶者で20歳以上60歳未満の方。

加入手続き:配偶者の勤務先

保険料の納め方:個人で納める必要なし。第二号被保険者の加入する年金制度が発生する

任意加入被保険者とは?

・日本国内に住む60歳以上65歳未満の方(年金受給資格期間が足りない方や年金額を満額に近づけたい方)

・65歳以上70歳になるまでの間に受給権を確保できる昭和40年4月1日以前生まれの方(加入期間の延長は受給権を確保できる月まで)

・海外に在住している日本人で20歳以上65歳未満の方

加入手続き:市区町村保険年金課または最寄りの年金事務所

保険料の納め方:自分で納める(日本に住所がある60歳以上は、原則口座振替となる)

このように日本国籍があれば、例え海外移住後も任意で保険料を納めることができます。

国民年金の種類と受給資格

日本の国民年金は三種類あり、すべてを併給することはできません。原則として一人一年金です。

※65歳以後は、特例的に支給事由が異なる2つ以上の年金を受けられる場合があります。

老齢基礎年金(65歳以降)

国民年金保険料を納めた期間や保険料免除期間などを合わせて10年以上ある方が65歳から受けられます。

障害基礎年金

病気やケガで障害が残ったとき、国民年金加入中や20歳前に初診日(初めて医師の診察を受けた日)がある病気やケガによって、障害等級の1級または2級のいずれかに該当する場合に支給されます。

初診日が60歳以後65歳未満で老齢年金を受給されていない国内在住の方も対象となります。

※障害者手帳などの等級とは基準が違います。

遺族基礎年金

国民年金加入中に亡くなったとき、国民年金加入者または加入者であった方で保険料納付期間と保険料免除期間などを合算して25年以上ある方が死亡した時、その方によって生計を維持されていた「子のある妻」※「子のある夫」※「子」※に支給されます。

※子とは18歳以上になったあと最初の3月31日までの間にある子または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある子をいいます。

国民年金保険料の納付

保険料は原則として、20歳から60歳になるまでの40年間納めなければなりません。毎月の保険料は翌月末までに納めることになっています。

ここでは、私のような日本の会社勤めをしていない海外移住者「第一被保険者」と「任意加入被保険者」にフォーカスして解説していきます。

第一号被保険者と任意加入被保険者の保険料

保険料は収入や年齢に関係なく一定の額を加入した月から納めます。

月々400円をプラスして納めると老齢年金受給時の年額に「200円×付加保険料納付月」が生涯加算されます。

・定額保険料 1カ月 16,520円(2023年現在)

・付加保険料 1カ月 400円(希望者のみ・国民年金基金と同時に加入はできない)

※納めた保険料は全額、納付された年の社会保険控除の対象となります。確定申告や年末調整の際には、「社会保険料(国民保険年金保険料)控除証明書」または領収書の添付が義務付けられています。

※付加年金と同時にiDeCo(個人型確定拠出年金)に加入する場合は、iDeCoの拠出限度額(月額6万8千円)は付加年金との合算での金額となります。

国民年金保険料の納め方

1. 納付書(現金)

日本年金機構より送付される納付案内書で翌月末までに納める。

納付場所:銀行、郵便局、農協、コンビニ、一部のドラッグストアやスーパーなど。

一定の保険料を前払い(前納)すると保険料が割引されます。

前納の種類納付期限
・2年前納(4月分~翌々年3月分)
・1年前納(4月分~翌年3月分)
4月末日
6カ月前納
・4月分~9月分
・10月分~翌年3月分

・4月末日
・10月末日
※上記以外でも年度途中から前納できる場合があります。

2. 口座振替

登録は金融機関や年金事務所に通帳、届印、本人確認、基礎年金番号通支書または年金手帳を持参。

通常の口座振替の振替日は翌月末日ですが、申し出により早割にすると1カ月当たり50円割引がありますが、申し込みは振替開始希望付きの前々月までにする必要があります。

前納の種類申込期限
・2年前納(4月分~翌々年3月分)
・1年前納(4月分~翌年3月分)
2月末日
6カ月前納
・4月分~9月分
・10月分~翌年3月分

・2月末日
・8月末日

3. クレジットカード

年金事務所にクレジットカード、基礎年金番号通知書または年金手帳を持参して登録。

※金融機関での登録不可能。

※前払い(前納)希望の場合、支払い開始月の前々月までに手続きする。

※納付書(現金)による前納と同じ割引額で、口座振替の早割り適応外。

一括納付(前納)の割引額(2023年)

納付方法2年前1年前上期下期早割(当月末払い)
納付書※・クレジット14,830円3,520円810円810円×
口座振替16,100円4,150円1,130円1,130円50円
※納付書のみ年度途中から翌年度末までの前納が可能。割引額は前納する月数に応じる。

4. ネットバンキング(電子納付)

契約方法などは、ご利用の金融機関に問い合わせ。

5. スマホアプリ

auPAY、d払い、PayB、PayPay、楽天ペイなど

保険料の納付が困難なときの免除・猶予制度について

上記のように、原則40年間の納付義務と5つの納付方法があるのは分かりますが、海外移住した場合はどうでしょうか?支払い続けるべきでしょうか?

もし任意加入被保険者として納付しないのであれば、納付の免除・猶予という下記の3つの制度があります。

1. 保険料免除制度

失業などにより所得の少ない方を対象に、所得に応じて4段階「全額免除」、「4分の3免除」、「半額免除」、「4分の1免除」があります。

審査要件

「申請者本人」、「申請者の配偶者」、「世帯主」のいずれかが申請する年度の前年所得などの定められた基準以下であることが要件です。失業(退職)された方は、離職票等で確認できた場合、本人の所得を除外して審査を行います。

申請場所

市区町村の役所内の年金課や最寄りの年金事務所に申請し、日本年金機構で審査と承認を待つ。

申請免除、納付猶予の対象となる所得の目安

所得基準
・全額免除
・納付猶予
(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円
4分の3免除88万円+扶養親族等控除+社会保険料控除額など
半額免除128万円+扶養親族控除+社会保険料控除額など
4分の1免除168万円+扶養親族控除+社会保険料控除額など

扶養控除額

  • 一般の控除扶養親族(16歳以上)38万円
  • 老人扶養親族同居老親等以外の人48万円

社会保険料控除の対象となる主なもの

  • 健康保険
  • 国民保険料
  • 厚生年金保険料
  • 国民健康保険料または国民健康保険税
  • 介護保険料国民年金基金の掛金
  • 厚生年金基金の掛金など

申請免除の承認期間

7月から翌年6月までです。

承認された場合に納付する保険料

承認期間中に納付する保険料
全額免除0円
4分の3免除4,150円
半額免除8,300円
4分の1免除12,440円

2. 納付猶予制度

就職が困難などにより、50歳未満の方に限り利用できる制度です。

審査要件

「申請者本人」、「申請者の配偶者」のいずれかが申請する年度の前年所得などの定められた基準以下であることが要件です。

申請場所

市区町村の役所内の年金課や最寄りの年金事務所に申請し、日本年金機構で審査と承認を待つ。

申請免除、納付猶予の対象となる所得の目安

所得基準
全額免除
納付猶予
(扶養親族等の数+1)×35万円+22万円
4分の3免除78万円+扶養親族等控除+社会保険料控除額など
半額免除118万円+扶養親族控除+社会保険料控除額など
4分の1免除158万円+扶養親族控除+社会保険料控除額など

扶養控除額

  • 特定扶養親族(19歳以上23歳未満)63万円
  • 同居老親等58万円

申請免除の承認期間

7月から翌年6月までです。

※途中で50歳になる方は、50歳到達日の前日が属する月の前月までの承認となります。

3. 学生納付特例制度

学生の方は、在学期間中の保険料を社会人になってから納めることができる制度です。

審査要件

「学生」で申請する年度の前年所得が128万円(申請する年度が令和2年度以前は118万円)以下であることが要件です。

申請場所

市区町村の役所内の年金課や最寄りの年金事務所に申請し、日本年金機構で審査と承認を待つ。

対象となる学校

大学(大学院)、短大、高等学校、高等専門学校、専修学校および各種学校など。

※各種学校の学生は、修業年限が1年以上で、都道府県等の認可を受けている学校が対象となります。

※夜間部、通信制課程、定時制課程の学生も対象となります。

※文部科学大臣が指定した一部の海外大学の日本分校に在学する学生も対象となります。

学生納付特例の承認期間

4月(または20歳誕生月)から翌年3月までです。

申請は毎年度必要

今年度、学生納付特例を承認された方で、翌年度も同じ学校に在学する方には、「学生納付特例申請書(はがき)」が送付されます。必要事項を記入し、返送することで学生納付特例の申請ができます。

ただし、在学する学校などを変更された場合は、市区町村の役所や年金事務所で申請手続きが必要です。

免除・納付猶予・学生納付特例の違い

承認結果
納める保険料額老齢基礎年金額算定時の免除期間の計算(全納付との比較)
平成21年3月以前の期間平成21年4月以降の期間
全額免除0円1/3で計算1/2で計算
4分の3免除4,130円1/2で計算5/8で計算
半額免除8,260円2/3で計算3/4で計算
4分の1免除12,390円5/6で計算7/8で計算
納付猶予0円年金額には反映されない
※令和5年の保険料で保険料額の5万円未満は切り捨て、5円以上10円未満は切り上げ

保険料をあとから納めることも可能

免除が承認された期間(一部免除の場合は免除後の保険料を納付した期間)は、保険料を全額納付した場合と比べ、将来の年金額が減額されます。

このため、保険料の免除や猶予を受けた方は10年以内であれば免除された保険料をあとから納めて年金額を満額に近づけることができます。

ただし、承認を受けた期間の翌年度から起算して3年度目以降に保険料を追納する場合は加算金がつきます。

なお、原則承認された古い月から順に納めなければなりませんが、学生納付特例や納付猶予期間により前に免除期間がある場合は、どちらを優先して納めるか選択できます。

移住後でも国民年金を受け取るための条件

次のA~Cのいずれかに該当する方。

条件A:1~8の期間の合計(合算期間)が10年以上ある方

1. 第一号被保険者で保険料を納付した期間
2. 第一号被保険者で保険料を免除された期間(全額免除以外は4分の1、半額、4分の3の保険料を納めた場合)
3. 第一号被保険者で納付猶予を受けた期間※
4. 第一号被保険者で学生納付特例を受けた期間※
5. 第一号被保険者で産前産後免除を受けた方
6. 第二号被保険者の期間
7. 第三号被保険者として届け出済みの期間
8. 国民年金に加入しなくてもよかった期間など(合算対象期間)※
※学生納付特例期間、納付猶予期間、合算対象期間は、受給資格期間に含まれますが、年金額には反映されません。

条件B:厚生年金の期間が、生年月日に応じて下記の年数以上ある方

一定の年齢以上の方には、従来の被用者年金制度(厚生年金・共済年金)の老齢基礎年金の受給資格期間25年以上を満たしたものとする経過措置があります。

昭和31年4月1日以前に生まれた方の特例(共済組合の期間を含む)

昭和31年4月1日以前に生まれた方は、厚生年金または共済組合の加入期間が生年月日に応じて一定の期間以上あれば、老齢年金の受給資格があります。

生年月日厚生年金の期間(共済組合を含む)
昭和27年4月1日以前20年
昭和27年4月2日~昭和28年4月1日21年
昭和28年4月2日~昭和29年4月1日22年
昭和29年4月2日~昭和30年4月1日23年
昭和30年4月2日~昭和31年4月1日24年
昭和31年4月1日以前に生まれた方の特例(共済組合の期間を含む)

昭和26年4月1日以前に生まれた方の特例

昭和26年4月1日以前に生まれた方は、男性40歳、女性35歳以後の厚生年金の加入期間が生年月日に応じて一定の期間以上あれば、老齢基礎年金の受給資格があります。

生年月日40歳(女性35歳)以後の厚生年金の期間
昭和22年4月1日以前15年
昭和22年4月2日~昭和23年4月1日16年
昭和23年4月2日~昭和24年4月1日17年
昭和24年4月2日~昭和25年4月1日18年
昭和25年4月2日~昭和26年4月1日19年
昭和26年4月1日以前に生まれた方の特例

条件C:退職共済年金の受給資格期間を満たしている方

ちなみに私の場合、条件Aの1、3、4、6、8番が当てはまり、通算10年以上あるので受給対象です。

-大学生の頃の4番にあたる学生納付特例。

-会社員として数年働いた時に納めた6番の厚生年金。

-会社を辞めてから数カ月納めた、1番の国民年金。

-移住後から現在に至る、3番と8番の納付猶予。

老齢基礎年金の受給額

では、20歳から60歳までの40年間保険料を納めた場合、年間いくら受け取ることができるのでしょうか。

40年間きっちり納めた場合、満額が支給されますが、国民年金の納付月数や厚生年金の加入期間等に応じて年金額が計算されるため個人によって変動します。

老齢基礎年金の満額(2023年4月現在)

年間 792,600円(68歳以上の方・昭和31年4月1日以前生まれ)

老齢基礎年金の計算式(2023年4月現在)

保険料の免除(全額免除または一部免除)期間、未納期間などがある場合は、その月数に応じて年金額が減額されます。

老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額

日本年金機構

まとめ

結論として海外移住者でも受け取ることは可能。

ですが、40年という満期の納付が完了していない方は、合算対象期間が10年以上を超える場合でなければ受給資格がありません。

また、免除や猶予期間があった方は、満額から減算され、将来受け取れる金額が変わってくることも念頭に置いておきましょう。

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この記事を書いた人

2017年オーストラリアに移住。移住後二年間はワーホリビザ、その後パートナービザに切り替え、クイーンズランドの田舎で生活中。仕事を見つけ、念願のボーダーコリーを我が家に招き、新築を建て、現在はキャリアチェンジのために奮闘中。

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